第三章



「見ぃつけたぁ」
「ひっ」

後ろから現れたのはマルスである。

鬼じゃないのだからこの時点では問題ないのだが、ディディーの話が確かなら逃げなくては、トゥーンはピチカの腕を掴むと。

「走れ!」

一言そう告げて、走り出した。

ピチカは今にも泣き出しそうな顔だったが、必死に涙を堪えて走っている。

振り向けば、マルスはしっかりとついてきていて。トゥーンは小さく舌打ちをすると、イヤホンに手を当てて。

「ネス! リュカ! 応答しろ!」

……返事は無い。

もしや捕まったのだろうか。いや、そんな最悪な事態だけは想像したくない。

「トゥーン……ディディー、がぁ」
「大丈夫だ」

不安げに声を洩らすピチカに、何よりも自分に言い聞かせるように返しながら、トゥーンはすぐ目の前に見えた建物の中へ吸い込まれるように駆けていった。
 
 
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