困った時の?
そうして魔道書は淡い金色の光に包み込まれると弾けて粒子化。
「……ねぇマスター。私たちは誰も消えないわ」
さらさらと粒子が空気中を流れるのをマスターは目を細める。
「例え何かが欠けてしまってもそこで途絶えたりそれまでを失ったりしない」
ルフレは自身の胸に手を置いて。
「これは……あの人たちの請け売りだけれど」
伏せていた目をすっと上げる。
「どうか信じて。私たちは他の何にも縛られない……それぞれが一人の人間としてこの世界を生きているのだから」
たくさんの物語があった。
傷つき、失い、奪い合いながら綴られた――
例えどんなに醜くても。
俺たち神様にとってはそれが。
「勝手にしろ」
小さく息を吐いた後で、
「……ところで」
半ば呆れたような冷めきった視線を上げる。
「これは何のつもりだ」
マスターが右手を上げると手首には手錠がかけられていた。その手錠の鎖を辿っていくとどうやらベッドの柱に繋げられているようで。別段構いはしないが、自分は繋がれているのに対してどうして弟のクレイジーは解放的なんだ。
あっちは破壊神だぞ。双子だからって見間違えてるんじゃないだろうな。
「話はじっくりと聞かせてもらった」
いつもの。ロックマンは両肘を膝の上に立てつつ両手を口元へ。
「再構築の件。あれを役立てない手はないだろう……」
そこまで語って満面の笑み。
「というわけで三食付きの個室完備、一切手出しはしない代わりに一定期間神力を譲渡するという契約で、成立しました」
「しちゃいました」
おい。
「クレイジー?」
「いいいいひゃい、いひゃい! だって拘束された兄さんとかレアじゃん!」
「そんなくだらない理由で兄の体を売り渡すな!」
困った時の神頼みなんて。
そんなのこっちから願い下げだ。
結局。強制的に契約を破棄したマスターが連れ帰ったクレイジーにきついお叱りと制裁を下したのは言うまでもない話で。
「だから僕料理してもダークマターしか作れないって言ってるじゃん!」
「腹を空かせた兄が困っているんだ。神様なら何とかしろ」
「なにが神様だっ! この鬼! 悪魔ー!」
……やれやれ。
end.
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