災厄の君へ
自分は誰なのか。ここは何処なのか。
誰に生めと頼んだわけでもなければ造れと願ったわけでもなく。望まない生の受け方にこの世界の全てを恨んで憎んだ遠い過去。
攻撃でもなければ宣戦布告でもない。
これは。
身勝手に生み出した人間たちへの──逆襲。
「……おにいさま」
書物に記された古い物語。
先祖の弊害は。
少しずつ形を変えて今も尚息づく。
「シア様」
本の表紙に手を置いて閉じる。
使用人に目を向ける。
「今いきます」
かつてポケモン達を脅かした災厄の一族。
争いを引き起こしたミュウとミュウツーの血を色濃く受け継ぐ私たちの家系は、それぞれが宗家と分家に分たれていた。
ミュウの血筋たる宗家の繁栄を助ける為に。未来永劫、先祖の過ちを償うべく。かつてミュウの遺伝子を組み替えて造り出されたミュウツーの血筋たる分家がその生涯をかけて尽力する。
そうで在るべきなのに。
「……おにいさま」
分家の人間でありながら。類稀なる能力と才能を持って生まれ落ちたあのひとを。
──ユウ・ブランを。
私は、絶対に。……許さない。
1/97ページ