インヴァースの輪舞曲



これには誰もが目を開いて驚いた。

パックマンが話しているのは無論最後の盤面での話だろう。そこでベクトル変更を怠ったとなれば勝敗の結果も変わってくる。……つまり。


ロックマンは。

自分が負けるためにわざと……?


「別に憶測でしかないから」

パックマンは小さく息をつく。

「否定されたらそこまでなんだけど──」


次の瞬間。

いつの間にか距離を詰めてきていたロックマンはパックマンの肩口に額を押し付けていた。


「は」

これには流石のパックマンも戸惑いを隠せない。

「博士曰く。これでも俺は十歳程度の少年として作られたらしいんだ」

慌ただしくしていた熱が一瞬で立ち退く。

「……年相応に我が儘を言ってみてもいいか?」


そうして。

ロックマンはぽつりと紡ぐ。


「帰りたくない」


一向に顔を上げないその人を。

今度こそ引き離す気にもなれなかった。


当たり前に。

揶揄うつもりにも。


「うん」

絶対に手放したくないとさえ思った。

「帰らなくていいよ」


普段の性格や振る舞い以上に。

どうしようもなく不器用なこの生き物を。
 
 
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