インヴァースの輪舞曲



そこにはライト博士が立っていた。彼の両脇にはロールとブルースがそれぞれ目を見張っているが双方最後の試合の結果に関して意見しようという様子は見られない──その一方でパックマンが口を開こうとするのをマークが静かに腕を伸ばして止めた。ここで余計な口出しをするのは得策ではないと判断した為である。

「……残念だよ」

ライト博士が一言告げるとロックマンは分かりやすく視線を落とした。たった一度敗北したからといってこうも冷たく突き放すものなのかとパックマンは眉を寄せたが苛立ちを抱えて前に出ようとする彼をマークは通さない。

「本当に残るつもりかね」
「……それは」
「往生際が悪いぜ」

ブルースが口を挟む。

「約束は約束だろ」

ライト博士は深々と溜め息を吐いた。

「……君の言うとおりだ」

これ以上追及しようものならあちらこちらから釘を刺されることは目に見えている。何より争いたくて足を運んだのではない。ライト博士はくるりと背中を向けるとバトルルームを出るべくして歩き出した。そうして誰もが目を見張る中ロールは一人ロックマンの元へ駆け寄る。

「ロック」
「……ロール」

ロールは何やら言い渋っている様子だったが決心が付いたのかロックマンの手を取ると。

「かっこよかったよ!」

ロックマンは小さく目を開く。

「痛そうだなと思って見てたけどあたしも手に汗握っちゃった……これが戦士なんだね」

ロールは微笑みかける。

「何してんだ。さっさと行くぞ」
「は、……はぁい!」

ブルースが呼び掛ければロールは慌てて返事をしてロックマンから離れた。途中で振り返って肩を竦めてウインク、再びライト博士の隣へ。


「ロック」


自動式のドアが開いた直後のこと。

「楽しんでいるかね」

何気ない質問だったがロックマンは一瞬だけ狼狽えてしまった。答えづらいわけではなかったのだがまさかそんな質問を投げかけられるものだとも思わなかったのである。

「私には到底理解できないが」

ライト博士は足を止めて背中を向けたまま。

「たまには聞かせなさい」

ロックマンはハッと顔を上げる。

「研究所で。……お茶でも飲みながら」
 
 
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