インヴァースの輪舞曲



呼び止める声に。……振り返れば。

「……お前」

そこに立っていたのはルーティだった。考えてもみればまともに話したことがない気さえする。

「さっきの」

ルーティは肩を竦めて笑う。

「嬉しかった」


信じて。


「別にお前の受け売りとかじゃないけど」

何もそれだとは誰も話していないのにそうして無意識的に否定するのはお約束だからなのか。ルーティはくすくすと笑う。

「……ロックマン、言ってたよ」

打って変わって今度は憂いを帯びた様子で。

「皆と本気で戦えるのが嬉しいんだって」

水を打ったような静けさの中その発言は当たり前にその場に居合わせた全員に聞こえていた。とはいえ分かっていたようなものである。そうでなければ此方側が負ければデメリットでしかないにも関わらず有無を言わせず本気で叩きのめしてくるはずもない。

「色んなプレッシャーがあると思う」

パックマンは自然と目を伏せて逸らした。

「戦うことは大事だよ。負けないことも」

でも。

ルーティは続ける。

「もっと別の手段の中に答えはあるから」

パックマンはハッとして向き直る。

「それは自ずと勝利へ導いてくれるから」


心臓が騒ぐ。


「必ず見つけられる」

ルーティは胸の前に手を置いて拳を握る。

「……いってらっしゃい!」

背中を押すような最後の言葉にパックマンは頷くとその背を向けてパネルと向かい合った。いつの間にか厭な動悸は失せていて妙に冷静になった自分が立っている。様々な感情が入り混じるこの場所に別れを告げるように。

足を踏み出したなら、そこは。……
 
 
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