インヴァースの輪舞曲



……隊長、か。

戦場に降り立ったミカゲは青の装甲を纏い終始無言で冷気に似たオーラを引き連れるその人をじっと見つめた。これまでの戦い然り彼が到底理解できないレベルの強さを誇る人物であることは皆まで言わずとも知れている。自分の実力が何処まで通るか当然自信も付かないが。


暗殺を兼任する忍びである以上。

──行け、と命令を下されたとあらば。


風を切る──その勢いでミカゲは次の瞬間には駆け出していた。両腕を構える動作と地面を踏み込む砂利の音に次の行動を予測させながら低く身を屈めて懐に入り込めば彼方も行動を予測して回避の体勢に移ったがミカゲは息を止めるかのように全ての動きを静止させて。一瞬、けれどその一瞬のフェイクがロックマンの腕を捕らえて内側へ引き寄せることで体勢を崩させることに成功した。もちろんロックマンも対抗するべく右腕を変形させながら差し向けたが対するミカゲも左脚を振り下ろして右肩を押さえ込む。

その隙。右腕を引けば手首から指先に掛けて透明な水が渦を巻いて昇り──やがてその手のひらに薄水色の苦無を生成する。双眸の赤が尾を引く。程なくして苦無は標的と定めたその人の喉を掻き切る勢いで銀色の一線を描く──


筈だった。


「、!」

いつの間に付けられたのだろう黄色の弾がその瞬間ミカゲの胸元で弾けた。大したことはない少量のダメージで済む程度のものだったがそれでも怯みを余儀なくされ隙を作られたのは大きかった。ミカゲは即座にその場から退いて後方へ大きく下がったが逃さんとするようにロックマンもまた目前にまで飛び出していた。

くっと眉を顰めて打ち出される拳を躱して打ち返し打ち流す、そんな攻防が続いたが遂に防御を崩され崖の外へ投げ出される──ミカゲは彼が追撃の為に前に出たその瞬間を見逃さない。印を結べば術が発動して宙に浮いたミカゲの体はその場から掻き消えた。即座崖際の彼を返り討ちにするべく影を縫うようにして現れ蹴り払ったがそこにその人の姿はない。まずい、と息を呑んだが目前にまで迫る青白い光に成す術などあるはずもなく。

「……!」
 
 
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