インヴァースの輪舞曲
誰もが口を噤んだ。……それが答えだった。
彼の世界戦闘力は二千万──数字ばかりが全てではないと分かっていても群を抜いているのは火を見るより明らか。それもあのロックマンともなれば嫌でも納得がいってしまう。頭が回るばかりではなく身体的能力もずば抜けていて、それがロボットだからという理由が付くにしても他の追随を許さない。戦闘面においても彼の体には多彩な飛び道具が搭載されており近距離から遠距離まで幅広く対応出来る。弱点らしい弱点といえば大技を使った後の排熱処理くらいなものだが、彼自身も把握しているであろうそれを果たして弱点として素直に晒してくれるものか否か。
彼がどちらの側に付きたいかというのは昨夜のやり取りから明らかだった。だからこそわざと負けるように提案する手も考えたのだが生憎この場に本人は居ない。というのも試合の始まる時間まで屋敷の中を見て回るという名目であれらが連れて行ってしまったのである。
姑息な手段は使うべきではないだろうが徹底されている。あの人は──ロックマンは恐らく本気で立ちはだかってくることだろう。
博士の命令とあらば。
「先手はどうする?」
ちなみに彼らが先程から話をしているこの場所は食堂から移動して正面玄関前のエントランスホールである。ジョーカーが訊ねるとマークは顎に指の背を添えて考えた。──恐らく皆分かっていることだろうが初めの数戦は"捨て"になる。繰り返し挑むことができない以上観戦の中で彼に勝利する術を模索していくしかない。
「俺たちが行きます」
口を開いたのはコウだった。
「打開策に繋がるんですよね」
「頑張るよー!」
マークは驚いたように目を丸くしている。
「その次は儂らじゃな!」
次いで名乗りを挙げたのはシラヌイ。
「まっ、それでげーむせっとになってしまうかもしれんがのぅ……うしししっ!」
「若いもんにばかり任せられんからな」