インヴァースの輪舞曲
……時計の針の音が響く。
どうぞ、と小さく言った後それぞれの前に差し出されたのは紅茶を淹れたカップだった。丸いテーブルを囲んで座るのはマークとルフレに加えて先程の三人。金髪ポニーテールの少女はロール──驚いたことにロックマンの妹にあたる家庭用少女型お手伝いロボットであるらしい。
次いで赤いヘルメットの少年はブルース。諸々の事情はあれど兎角ロックマンとロールの兄にあたる戦闘用ロボットらしい。そして問題の白髭の男こそ例の博士ことトーマス・ライト。……
「大丈夫なの?」
紅茶を出し終えたデイジーはキッチンの奥に引っ込むと心配そうに声をかけるピーチに背中を向けながらお盆を胸に抱いて目を細めた。
「ダージリンティーを淹れたの」
自然と眉間に皺を寄せながら。
「落ち着いてもらわなきゃ困るわ」
頼んだわよ。……ルフレ、マーク。
「……驚いたよ」
ライト博士は紅茶を一口飲んで呟いた。
「まさかあの"ロック"が一部隊のリーダーを」
「あたしもびっくりしちゃった!」
ロールは嬉しそうに笑う。
「隠してないで言ってくれたらよかったのに!」
「あまり良いという話でもないぞ。ロール」
「──それは。貴方にとって彼が家庭作業用人型ロボットのロックだからですか」
ルフレが口を開く。
諭すつもりで視線を遣ったマークもテーブルの下で彼女が握った拳に手のひらを重ねて膝の上に置いているのを見て口を噤んだ。言葉の一つ一つが我慢ならないのは自分だって同じだ。
「ふむ」
ライト博士はカップを置いて視線を返す。
「そこまで分かっていて譲らない理由を聞こう」