インヴァースの輪舞曲
ハル君……と、トレーナーが小さく呟いた。
「分からないんだ」
ロックマンはぽつりと零す。
「博士のことは──俺にとっても誇りで家族として信頼しているはずなのに一言一句に逆らえないどころか抗おうというつもりにもなれない」
動悸がする。
「あの人は俺のことを心配しているのに。想ってくれているのに。あの人の敷いた道を外れようとした途端刺さる視線と言葉が引き戻して」
吐き気。
「"ぼく"じゃないと」
認識すらしてもらえないような気がして。
「隊長」
ハルはその手を強く握った。
「後のことは……ぼく達が考えるから」
「今日はもう眠っていてくれ」
続け様マークが言ってルーティに視線を向ければルーティはこくりと頷いた。
「部屋に戻ろう。ロックマン」
歩み寄ってハルに託されたその手は冷え切ってしまっている。まるで彼らしくない弱々しい姿に一目で重症だなと判断して、ルーティはフォーエス部隊の面々に目配せをして頷く。
「そういえば髪を乾かすのを忘れちゃったよ」
ルーティはロックマンを連れて歩き出した。沈黙ばかりが続いてしまわないように、返答があるかどうかは別として聞こえやすく声を出しながら。
「リムに見られたら怒られちゃうなあ……」