インヴァースの輪舞曲



夜。

「ロックマンって二重人格だったりする?」
「……えっ?」

大浴場。浴槽のお湯に肩まで沈めて石鹸の匂いに癒しを得ながらルーティは呟いた。

「聞いたことがないけど」

当然のことながらきょとんとするマークの横から代わりに返したのはシュルクである。ディディーやトゥーンといった子供たちが広い浴槽の中で水遊びをしてはしゃぐ声を聞きながらルーティは小さく唸って縁に掴まりその腕に頬を乗せる。

「何かあったのかい?」
「……ううん」

実際そんなはずもなかった。

あの後──通話を終えたロックマンはいつから何処まで聞いていたのか訊ねた後。節目がちに笑ってまるで話題を逸らすかのようにバトルルームでの出来事を短く語ってその場を離れた。


当然彼の事をよく知っているというつもりでもないけど彼らしくないのは確かで。けれど彼自身もそれを隠そうとしていないというか。……


「まァあれだけ仕事詰めてりゃぁなァ」

ざぷんと飛沫をあげて隣に浸かってきたのはラッシュである。彼は常時目元にマスクをしているが外しているのは初めて見る気がする。

「たまの息抜きにでもなるかと思いきやコレよ」
「徹夜で入れ込んでたみたいだったからね」

ルーティは苦笑いを浮かべた。

確かに──聞こえてきた会話の節々には気になるものもあったけどただ単純に仕事に追われたり、息抜きのつもりで入れ込んだオンライン対戦でも結局は思うところがあって精神的にも疲れていただけだったのかもしれない。

ならばせめて三食きっちり食べて零時を跨ぐ前には寝床に付くだけでもしてほしいものだけど彼のことだからのらりくらりとかわされそうで。……

「さて。僕たちはそろそろあがるよ」

立ち上がるマークをルーティは見上げる。

「早く行かないとまた混むからね」
「ちゃんと髪乾かすんだよ?」
「はは。分かってるよ」
 
 
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