井蛙の教訓



今回の仕事は単純なもので水面下で手回しして多額の金銭を不正に横領しているとされる資産家の息子の処理、即ち暗殺だった。見易い仕事ではあるが当然監視の目も働いている為素人が関わっていいはずもない。

「すみませんこいつ聞かなくて」

ミカゲは狼狽える。とはいえ此方だって時間を見計らって出てきたのだから迷っている暇も。

「つ……付いてくるだけ、なら」
「やったー!」

そもそも彼らはSP隊員なのだから遅かれ早かれ仕事を共にすることになるのだ。そうは分かっていても単独で請け負うのはこれが最後になるものと思って今日は張り切っていたのだが。

「ありがとうございます!」
「ありがとー!」

付いてくるだけとは言っても相手はまだ子供。お守りは得意ではないのだが。

「、では」

あどけない笑顔に緊張の糸が緩みそうになりながらも駆け出す。フォーエス寮の窓からじっと一部始終を見守る影に気付かずに。……


場面は変わってとある邸宅の庭の一本木の上。

「犬がいっぱいだねー」
「しっ」

無駄に広い庭に放し飼いにされているのはどうやら碌に餌を与えられていない雑種犬のようだった。番犬として躾ける時間も金も惜しいと感じたのかは知らないが嗅覚の効く空腹の犬を庭に放つのはある種よくできた防犯手段だ。

「何処から入るんですか?」

コウが聞く。

「庭はこのまま下りても問題ない」
「、そうなの?」
「見れば分かるだろ。犬が無事なんだから」

そっかー、とツツイは納得。
 
 
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