井蛙の教訓
無理です、なんて弱々しい声は。
椅子を引く音や扉の音に掻き消された。
「……ミカゲ」
最後まで残っていたロックマンは手に持っていたそれをミカゲの座っている席に置かれていた資料の束の上に重ねて微笑みかける。
「後は任せたからな」
そ、
そりゃないで御座るよ、隊長ぉぉ……
「はぁ……」
場面は変わってミカゲの部屋。
ベッドの上に座りながら持ち帰った資料を眺めるミカゲの姿があった。引き継ぎと言うからにはしっかりとしていて基本的な能力から立ち回りの細かな癖など様々な分析データをまとめた情報資料が各員二ページずつ用意されていた。それはそれは有り難いのだが向こう一週間分のスケジュールまで組まされており実際に一緒に任務を熟す中でコミュニケーションを取れとのお達しの様で。
考えれば考えるほど荷が重い。何のために自分が単独の任務を選んできたと思っているんだ。
「……はぁー」
深く深く溜め息を吐いて項垂れる。
純粋な善意だからこそ。強く断ることもできなければ性格が祟って素直に好意的に受け入れることも出来ない自分に嫌気が差してしまう。
プライドがどうこうという話ではなく裏世界に関わることがどれだけ危険なことなのか、隊長は理解しているのだろうか。暗殺業に長く勤めてきた自分ですらその手の任務の達成率は"たったの"九十パーセントでしかなかったというのに。
そうして思考を巡らせている内にふとカーテンの隙間から陽光が差さなくなっていることに気付いた。もうそんな時間かと資料の紙を置いたミカゲはぐっと両腕を伸ばして体を軽くほぐすと。
瓶底眼鏡の奥で。目の色を変える。