井蛙の教訓



拍手喝采ともなればより縮こまってしどろもどろする男だという事を誰も理解していた。故に視線が交われば笑みを返す程度。それでもそれこそがミカゲにとって救いであり賞賛でもあった。

「……ま。意図せぬ介入はあったようだが」

バレている。

「何か言うことは?」
「前期隊員は手出し厳禁。……でも」

マークは笑いかける。

「……友人なら?」

ロックマンはふっと笑みを溢す。

「問題ない」


友人とか友達とか。何処の青春ですか。

自分達は剣や魔法の飛び交う戦場に進んで足を踏み入れる戦士ですよ。正義の味方なんですよ分かってますか。聞こえてるんですか皆さん。


リア充じゃないんだから。


「前置きはこのくらいにして会議を始めるぞ」
「今から会議なのかよ!?」
「これくらいで根を上げていては駄目ですよ」
「慣れるからね」


叔父の教えてくれた言葉を思い出す。


強い心は自分にとっての刃となるのだと。

それが──"忍"なのだと。


「A社の株の状況は?」
「ああ。不審な動きがあったからな」
「抑えていますよ」
「S工場の件ですが未だ黙秘を続けています」
「時間はある。泳がせておけ」


……今なら分かる。

仲間、……いや。友人を守りたいと思う気持ちはその"強い心"をも突き抜けるということ。

だって仕方ないじゃないですか。この目で実際に見せ付けられたんですから。壁なんてぶっ壊して引っ張り出されて思い知らされたんですから。


だからきっと。──自分は貴方の先を行きます。


「……また資産家か。好きものだな」

ロックマンは一枚の紙を手に短く息を吐く。

「どうするんだい」
「決まっている」

青の眼を擡げた先。

「ミカゲ」


学びを得た井の中の蛙は。

外の世界を目指して飛び出すのだろう。


「……御意!」

友人だの友達だのと名乗る物好きを連れて。


新たな景色に。

期待に胸を疼かせながら。



end.
 
 
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