井蛙の教訓
「ウルフ」
スピカが呼び付けると通路の奥、暗闇の中から人影が一つ。それは赤目を開いて正体を露わにすると要望通りに倒れ込んだ男を肩に担ぐ。
「異論はないはずだ。こっちはテメーらの茶番に付き合ってやったんだからな」
茶番?
「認めよう」
……………………うん?
「後はお好きに」
「其方こそ」
スピカは鼻を鳴らして羽織ったジャケットのポケットに手を突っ込むと踵を返した。ダークウルフは冷たく視線を向けながらも終始無言のまま男を担いで後を追う。暗闇の中響く足音が次第に遠退いていきやがて完全に聞こえなくなった頃。
「……隊長」
ミカゲはぎこちなく振り返りながら。
「今の話は」
「ああ」
読めない人だと思う。分かっている。
けれどその行動全てに理由があるからこそ付き従う意味があった。例えばそれが限りなく悪に近くても一般的な常識に反していても。
「ミカゲ、並びに秘密結社SP隊員各位」
……この人は。
「試験、合格だ」
このブラック上司ときたら!