井蛙の教訓
「……どうかしましたか?」
男が訊ねる。
「そのカードキー」
「はい」
「天井から降ってきたんです」
ロックマンが神妙な面持ちで述べると男は被っていた制帽の鍔を掴んで天井を見上げた。
「……実は昨日、酔っ払っておりまして」
男は小さく笑って視線をロックマンに戻す。
「世界が逆さまに見えていたんです」
「逆さまに」
「先程の爆発の音で目が覚めましたよ」
ロックマンはほんの少し小さく目を開いたが。
「……成る程」
釣られたように肩を竦めて失笑。
「では。自分は上の階の様子を見てきます」
「お気を付けて」
ロックマンが離れた後。一つの山場を越えたとばかりに小さく息を吐き出す男に対し女は腰に手を当てながら天井を睨み付ける。
「まったく! テリーが機転を利かせなかったらばれていたわよ!」
「うぅ……思ったよりタイミングが難しくて」
天井から返ってきたのはバンジョーの声。
実は──警備員二人の正体はそれぞれテリーとカズーイだったのである。カードキーが天井から降ってきたのも無論ロックマンの気を引くべくバンジョーがタイミングを見計らい落とした為。
「グレイト! ナイスジョークだったわ!」
無線機からアレックスの声が聞こえる。
「どういう意味だったの?」
「解説したら面白くないだろ?」
テリーは白い歯を見せてウインクをする。
「……そういうものなのかしら」