井蛙の教訓
陽が傾く。落ちる。
──嵐の前の静けさというやつだった。
「静かですね」
ぽつりと零したその人がスナイパーライフルを構えて待機していたのはビルの屋上。標的は銃口の向けられた先──レイアーゼ中央司令塔の中にいる。確かに陽が傾いてきたとはいえ光に長く触れれば焼けてしまう脆い肉体だ。その為構えるその人の側で陽の光に当たってしまわぬようもう一人日傘を差して待機していた。
「あーあ。気付いちゃったねぇ」
日傘を差したその少年はにやにやと笑う。
「大丈夫そぉ?」
「何を言ってるんですか。少しくらい難易度が高い方がゲームは面白いものですよ」
そう言って、笑みを浮かべるのは。
亜空軍率いる偽物集団ダークシャドウに所属するダークファルコその人だった。
「そぉかなぁ」
相変わらずにたにたと憎めない軽薄な笑みを浮かべるのはダークピット。
「泣き喚き逃げ惑う人間よりも。希望を持って自信に満ち溢れた人間の方が甚振り甲斐があります。それに──撃てば当たるなんて単純作業にも飽き飽きしていたところです」
純粋無垢な悪の目が正義の塔を捉える。
「愉しませていただかなくては」
「へー面白そうなことやってるじゃん」
この声は。
「何のゲーム?」
「、……偶然ですね」
流石のダークファルコも構えを解いた。
「そんなに緊張しないでよ」
「そうだとも」
弟に続けて兄は嗤う。
「我々の存在など気に留めず安心して存分に力を振る舞うといい──」