井蛙の教訓



……小動物みたいだ。

マークは布団の上から優しく撫でながらそんなことを思った。心配そうに見つめるシュルクの視線に気付いて振り向き、微笑みかける。彼は確かに起きているのだろうがさっきの今で気を悪くしているのか一言も返さない。放っておくのが一番だろうと思いながらも積極的に進み出る彼に釣られたのは自分だ。上手く言葉に出来ないが本質を見抜いているような気がして──シュルクは応えるように頷いてそれから室内を見回す。

彼の趣味嗜好は軽く触れる程度には認知していたが──確かに理解し難い。どうりで普段から人を部屋に入れたがらないわけだ。偏見があるわけではないが彼の財産は主にそれらに吸われているのだろうなと納得しつつ。ふと頭の中で複雑に絡み合っていた紐の解けるような感覚がして。


ああ。

そういうことか。


「ミカゲ」

マークはもう一度だけ声を掛けてみる。

「出ておいで」
「……嫌で御座る」
「出てこないと」

くすっと笑ったが刹那。

「──こうだっ!」

マークはまん丸と盛り上がった布団の上にばっと覆い被さると。端から手を滑り込ませて──


「ふぎゃあぁああっ!?」


……へ?

「ひいっ、やめ、ま、まぁくっ」
「ほらほら! 早く出ないともっと苦しいよ!」
「あはははひゃははっ! ひ、ひぃい、っ!」

く……くすぐってる……?

「ま、まぁく、しぬ、しぬ……!」
「あははっ」

マークは隙を見て布団を剥ぎ取る。

「ほらね。シュルク」

肩を竦めて笑う。

「……大丈夫だっただろ?」
 
 
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