井蛙の教訓
不甲斐ない──悔いるこの言葉を。
どうしてそうも簡単に否定できるのだろう。
「あ、帰ってきた!」
黒い感情が渦巻いている。膨張して今にも弾けそうに苦しそうに息を切らしている。
「ミカゲ、心配したよ!」
フォーエス寮。その通路で各位は合流する。
事態が事態ともなれば早急に知れ渡り任務に出掛けている隊員を除いてほぼ全員が通路に出てきていた。エレベーターを使い戻ってくれば真っ先に駆け寄ってきて手を握ったのはソラ。
「……心配」
「急に飛び出すから」
何を言っているんだろう。
「……面目ない……で、御座るよ」
「ミカゲ。あまり自分を追い詰めるなよ」
理解が出来ない。
「俺たちは現場を見ていない」
ジョーカーが進み出る。
「状況の説明を」
何で?
「────」
声も音も遠退いて。
飛び出すのは当たり前だろうに。幾らあの人が最強と謳われる人であれ剣も銃も通らない鋼の体であるはずもない。油断を取れば命を手放す可能性がある以上何かあったのなら多少大袈裟であれ最優先で駆け付けるべきだ。何よりも──彼は一般市民とは違う正義部隊の要となるその人物。心臓と等しいその人をまさか一般市民と同じく軽薄に扱うなど出来るはずもない。
自分を追い詰めるな?……弾は二発あった。しずえの拾った音が一発目ならその瞬間に飛び出していれば怪我を負わずに済んだかもしれないという何よりもの証拠だ。それを知っても尚後悔の念に苛まれないなんてあるはずもない。
……当主の刀である以上は。
護るべきもののために判断を見誤るべきでは。
「ミカゲ」
引き戻される。
「……どうするんだ?」