井蛙の教訓



エレベーターは使えない──となれば。

ミカゲは走りながら印を結ぶ。応じる様に現れた白い煙がたちまち体を包み込んだかと思うと次の瞬間ミカゲは忍び装束に身を包んでいた。そのまま例の会議室から最も近いであろう適当な部屋へ飛び込めば真っ直ぐ窓辺へと向かう。

「おいおい。慌ただしいな」

窓を開いて縁に足を掛けたそのタイミングで声を掛けてきたのはケンである。扉も叩かずに侵入したことは詫びるべきだろうが生憎の緊急事態では言葉を交わす時間さえ惜しい。

「一人で行くのか?」

ケンはその背中に問い掛ける。

「おっと」

けれどミカゲは答えることなく窓の外へ。

「分からねぇヤツ」


手荒である事は承知の上で通路の窓硝子を蹴破って三階の通路へ降り立つ。司令塔全体が停電という緊急事態であるにも関わらず妙に静まり返っている。これを嵐の前の静けさと捉えるべきか否かはこの目で現場を確認しないことには。

「、!」

銃声──心臓が跳ねるのを感じてミカゲは急ぎ音の方向に向かって駆け出す。発生源は予測通り遠くなく例の会議室と思われるその一室の扉は開け放たれていた。音や声が確かに聞こえる。

「皆さん落ち着いてください!」
「救護班を!」

怪我人が出ている!?

「、隊長ッ!」

ミカゲは思わず声を上げて部屋に飛び込んだ。


「……な」


それ見たことか。

過去の自分や仲間の安易な発言を嘆く。

「、は……やってくれたな……」

血濡れた肩を押さえて膝を付くその人は。

「隊長ッッ!」
 
 
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