井蛙の教訓
……次の日、
「ミカゲ・クアトンッ!」
テロップさえ隠れるこの声量である。
「あなたったら本当に信じられないわ!」
「まァまァ」
両手を軽く挙げて宥めようとするラッシュには目もくれず至極不機嫌な様子でミカゲに詰め寄るのはルルトだった。ミカゲは仕事外とだけあってオフモードだったがおどおどとした様子もなく終始無言で顔に影を落としている。
「ちょっと、うるさいんだけど」
これが真っ昼間からフォーエス寮の通路のど真ん中で繰り広げられているのだから興味がなくともいやでも目につくというもので。仕事上がりなのか否か肩を回しながら気怠そうにパックマンが言葉を投げかけてきたがルルトはそれさえ構う様子なくますますヒートアップするばかり。
「私たちは仲間なのよッ!」
ルルトは拳を握り締めながら。
「作戦の提示もせずに仲間を囮に使うとはどういうことなのよ!」
……五月蝿いな。
「、何」
心の声が漏れ出したことに──気付かない。
「……わ、忘れてただけで御座るよぉ」
ミカゲはようやく顔を上げると苦笑にも似た笑みを浮かべながら頭の後ろを掻いた。ルルトはその姿を見留めた途端全身の力が抜けたように深々と溜め息を吐き出すと顔を背けて。
「……そう」
空気が澱んでいる。
本音を嘘で塗り固めている。
「……ミカゲ」
ルルトはゆっくりと口を開いた。