井蛙の教訓
音が途絶える。──そんな錯覚に陥った。
「それでいい」
向けられた殺意に対してその人は。
至極満足げに。
「……が」
ロックマンはカップを口に運びながら。
「まだその時ではないな」
あの瞬間──スピカの影が急激に盛り上がったかと思うと形を為した。付き従うその人の思想に従って銃を構えたのはダークウルフ。けれど時を同じくしてその行動を読み切ったのか阻止するべくロックマンの両脇でシラヌイとモウカが愛用の光線銃を構えていた。裏社会を生きてきた彼らが如何にして姿を現したかなどさしたる問題ではない──思えばこうして交渉するのに用心棒を連れてこないはずもなかったのだから。
「……フォックス。ファルコ」
ダークウルフが静かに口を開いて名前を呼ぶ。
「やれやれ。賢いですね」
「一触即発ってヤツぅ?」
無線機から返ってきたそれぞれの声から察するに別々の場所で待機していた彼らも同じように差し向けられたのだろう。
「スピカ」
ルーティが呼ぶとスピカは短く息を吐いた。
「……ウルフ。銃を下ろせ」
ロックマンがにっこり笑う中でスピカは至極不服そうに足を組んで頬杖を付いた。
「で。時間の指定までするってのか」
「話を聞いてくれて嬉しいよ」
よく言う。聞かない選択も与えない癖に。
「明日の午後」
ロックマンは答える。
「司令塔の三階でコーチング会議が行われる」
「お前それ出る必要あんのか?」
「敵に隙を見せなくてどうするんだ」
どっちの意味だか。
「お前の隊員は知っているのか?」
「一部には伝えてある」
傍らのシラヌイとモウカは黙っている。
「……そうかよ」