井蛙の教訓
嘘は言っていない──これは間違いなく公式的な形で提出された依頼届。
依頼人の名前は伏せられているが認め印が司令塔内部に務める事務員の使うそれと瓜二つだ。隠すつもりもないということは確実に仕留めてほしいという心の表れだろうか。それにしても聞くだけでは俄かには信じられなかったがこの目で実際に"第四正義部隊フォーエス部隊の隊長の排除"と記された文章を見てしまうと否が応でも。……
「い……色々と間違ってるよ!」
これにはルーティも黙っていられなかった。
「依頼人を突き止めてほしいとか依頼するなら分かるけど、まさかその依頼届を敵対してる相手にわざわざ手渡してお願いするなんて」
「前者は我が部隊が務める」
、へ?
「心配には及ばない」
「……成る程な」
漸くのこと理解に至ったがそれが彼の癇に障ってしまったことだけは間違いなかった。
「つまり。俺らがこの依頼に従ってどう手を下そうとしたところで自分の部隊が阻止した上で依頼人を制裁するから問題はないと」
「ようやく分かってくれたようで嬉しいよ」
ロックマンは笑いかける。
「随分と嘗めた真似をしてくれるじゃねーか」
スピカは頬に黒の閃光を走らせた。
「いいんだぜ? 今ここでやっても」
「スピカ!」
「それは契約に反する」
ロックマンは短く息をつきテーブルの上に両肘を立てて寄りかかり両手を口元へ運ぶと。
「……この十倍。報酬を出そう」
「っは!?」
流石のスピカも思わず素っ頓狂な声を上げた。
「初めから悪い話ではないと言っている」
ロックマンは神妙な面持ちで。
「試みも企みも悉く阻止してきた実績を持つ敵対組織の指導者だ。それの首がとれたともなれば其方の上司もさぞお喜びのことだろう。依頼を受けない理由があるはずもない……それとも」
ゆっくりと視線をあげる。
「この期に及んで情がわいたか?」
煽るように。
「俺が似通った立場なら喜んで引き受けるが」
瞬間的に張り詰めた糸が切れる音。
「スピカ!」