井蛙の教訓
なんとまあ。空気の重いこと重いこと。
「あ……あはは」
仲裁役に選ぶ相手としては間違ってはいないがこの空気をどう中和しろと。取り持てと。荷が重いにも程がある。こんな時にまで愛想笑いが出来るはずもなくルーティは引き攣った笑みを浮かべるばかりでもはや隠す気すら起きない。
「スピカ」
そう呼んだのはルーティではなかった。
「お前の部隊の能力を見込んで頼みがある」
……頼み?
「誰が」
否定するより早く差し出されたのは一枚の紙。
「スピカ」
ルーティが耳打ちするとスピカは眉を寄せながらそれを渋々と受け取った。一度瞑った瞼を小さく息を吐いた後に開いて内容に目を通す。
「は」
「ご理解いただけたかな」
ロックマンはカップを口に運ぶ。
「どういうつもりだよ!」
「内容の通りだ」
「スピカ……なんて書いてあったの?」
「どうもこうも」
スピカは紙をテーブルの上に放る。
「こいつはお前の殺害依頼じゃねえか──!」
え?
「ころ、……え?」
「だからそうだと言っている」
困惑する二人に対して顔色ひとつ変えないまま。
「依頼人は司令塔内部の人間」
「そいつを殺せってことか」
「標的はこの俺だと書いてあるだろう」
何が言いたいのか分からない。
「ろ……ロックマン?」
意図も掴めない。
「悪い話ではないと思うが」
「自棄になったのかよ」
「まさか。寧ろこうも都合の良い依頼が見つかるものだとは思わなくて浮かれている程だ」
そう言って笑みを浮かべるロックマンに気味の悪ささえ窺えた。警戒して睨みを利かせるスピカを横目にルーティはそろそろとその紙を手に取って内容に改めて目を通してみる。