井蛙の教訓
なんで。……なんで、
正義部隊のロックマンがここに──!?
「スピカ」
それこそ今にも噛み付きそうな敵意剥き出しの顔だったに違いない。ルーティが服の裾を引くのでスピカは小さく肩を跳ねて振り向いた。
「大丈夫だから」
何がだ、なんて食ってかかってしまいそうな気持ちをぐっと堪えて眉を顰めながらスピカは手荒く椅子を引いて勢いよく座る。足を組んで睨み付けても尚そいつと来たら澄まし顔で椅子に腰を掛けながら訪れた店員に注文をしているのだから見ていて腹が立つ。
「えっと、……お、遅かった……ね?」
空気を取り持とうとルーティが口を開いた。
「潤滑油が安かったからな」
「え」
「冗談だよ」
せっかくスピカも声を揃えたのに。
「俺は確かにロボットだが残念なことにこの体の作りは人間とほぼ同じなんだ」
「へ……へぇぇ……」
まずいまずい。スピカが苛々してる。
「お待たせいたしました」
幸か不幸か店員がやってきた。
「ご注文のホットカフェラテです」
「ありがとう」
にこやかに対応してロックマンはテーブル上に置かれたカップを手に取る。一口二口とのんびり堪能する姿にいい加減に苛立ちも頂点に達したのかスピカは膝を細かく揺り動かしながら。
「で。さっさと用件話したらどうだ」
「せっかちだな。君は」
ロックマンは呆れたように息を吐く。
「大体っ! 俺だけに用事ならこいつを呼ぶ必要なかっただろうが!」
指差すスピカにルーティは苦笑い。
「彼が居なくても素直に応じたのか?」
正論。
「ま……まあまあ」
仲裁役とは賢明な判断である。