井蛙の教訓
暗殺とは。政治上の立場や思想の相違などから密かに要人を狙って殺すことである。それは例えば静寂の夜に忍びながら──はたまた喧騒の中人目を欺いて。目撃者はあってはならない。証拠の一つも残してはいけない。木を隠すなら森の中だと語られるように人で居なければならない。暗殺は単なる殺人とは違うのだから。
自分は分かってる。分かっているからこそ理解してくれる側の人間をまさか自ら求めようともしなかった。実際この部隊に入隊を希望したのも世間的に見て満場一致で正義の味方であると評価を得られるだけの覆面が欲しかったから。暗殺業に携わっていると話したその時は隊長も言葉を選ぶ時間を有していたが君に合う仕事をと割り振られたそれは希望通りそのもので。
不自由など感じていなかった。
今まで。単独で問題なく熟せていた。
「わ」
ロックマンの部屋を後にしてゆっくりと歩いていたばかりに前方不注意。そんな声に釣られて顔を上げるとマークが立っていた。
「びっくりした」
「……え?」
「凄い顔をしているから」
顔。……ぺたぺたと自分で頬に触れてみる。
「そんなに?」
「うーん。何というか」
「──人殺しみたいな目してる」
どくん。
「ってかぁ?」
ミカゲの背後に影が差した。
「……リドリー!」
マークは眉を寄せてその名前を呼んだ。
「あぁ? 事実だろうが?」
ミカゲはゆっくりと振り返る。