井蛙の教訓
そうして擡げた青の目は心底怠そうで。けれど背中に手を回して取り出したのは気怠げな態度とは裏腹に獲物を仕留める気満載の巨大なローラー武器。掲げたそれを一度は地面に下ろしたがずしりと草地を鳴らして。すかさず男たちが銃を構えるのと同時にコウはローラーを大きく横に引いて薙ぎ払う。──青のインクが男たちには届かないまでも周囲を大きくその色に染め上げた。男たちが鼻で笑ったのも束の間。
「な」
彼らインクリングは自分の髪色に適応した色のインクの中では自在。彼らはさながらゲームのように一定の範囲内をインクを塗りたくる事を仲間内で競っているがその実縄張り意識は高く不一致の髪色の者が自身の縄張り内に足を踏み入れようものなら容赦なく制裁を下す。
インクリングは──人じゃない。
人を人のようには扱わない。
「ぎゃ」
資料の内容を思い返していた最中そんな声がしたかと思うと青のインクの中に不自然に赤色が混ざっていた。コウは念には念をといったように高く掲げたローラーを力強く振り下ろすと噴き出す赤には全く目をくれないままもう一人にゆっくりと視線を移す。
「、ひっ」
男は震える手で銃口を空へ向けた。まさか応援を呼ぶつもりか──飛び出そうとしたが刹那。
「え」
男の腕は呆気なく──落とされる。
「騒がしい」
黒のひと羽が舞い落ちる。
「今宵はこうも冷たく美しく繊細であるのに」
その男は赤の付着した刀を静かに払う。
「静かにしないか。人間」