井蛙の教訓
さて。冷静に。……分析せねば。
ただ降りるのもいけない。当たり前だが素直に降りればあれが気付いて鳴きながら駆け付けてくることだろう。今この時点でも目をぎらぎらさせながら不審な匂いを既に嗅ぎ付けて獲物の姿を探しているというのに──だからといって主人に恵まれなかっただけの犬にまで手を下す必要はない。例えば法則もなく歩き回っているだけに見えても実はルートは確立していて──
「はやくいこーよ!」
えっ?
「、んな」
声を漏らした時には遅く。
一本木の上からツツイが飛び降りた。
「あっこら!」
コウの静止の声も聞かずあっという間に激しく吠える犬の群れに囲まれたツツイは自身の服の中から二丁拳銃に似た武器──マニューバーを取り出す。まさか殲滅、と思ったがツツイが乱雑に放ったインクは犬の顔面に少量ヒット──それだけでも目眩しには充分で驚いた犬は一転して情けなくか弱い声を上げる。その隙にツツイは最小限散らしたインクの中に転々とイカの姿で飛び込み最終的に茂みの中の排水溝の中へ。
「、コウ!」
次に飛び降りたのはミカゲが名前を呼んだその人だった。匂いが近くなり警戒する犬の群れはそれでも視界を奪われていることが仇となって前へ進めずにいる。好都合、かと思いきや流石にこの異変に気付いたのか正面玄関を張っていた男たちが慌ただしく駆け付けてきた。
「なんだお前は!」
「おい、あれ正義部隊の」
……まずい!
「あー見られたらまずいんだっけ」
それだというのにコウは呑気そうに。
「目撃者。いなくなればいっか」