偽りの天使
どうして。
「くっ」
暫く呆気にとられたままでいると、ロイは掻くように何度も腕を伸ばしてようやくピットの腕を掴まえた。ぐいと引いて空を、そして海を見る。
時間がない。
「……ピット!」
ロイはぐっと彼の腕を握り、叫んだ。
「飛べ!」
どくん。
「……無理だよ」
服とマントがばたばたと音を立てて声を阻む。
「なんっ」
「出来ないよ! 飛べないんだ!」
ピットは声を上げた。
「ボクは天使じゃないんだ。この羽根だって偽物で――」
「そんなの、少し言われただけだろ! 信用っ」
「ロイだって見ただろ!」
繰り返す。
「何度も落ちた! 届かなかった!」
視界が滲む。
「ボクは飛べないんだよ!」
叫ぶ。
「限界なんだよ!」