偽りの天使
誰より早く駆け出したロイを目に捉え、ダークロイは瞳孔を細めた。
「……来ないで」
抱えた鞘と剣の鍔の隙間から、どろっと黒い煙が溢れ出る。
距離が狭まってきた時、ダークロイはより一層強く抱き締めて叫んだ。
「痛いのはイヤだッ!」
――まるで噴水が噴き出すように。
黒い煙に押し出されるような形で赤々とした刀身の剣が飛び出す。ダークロイはその時瞑っていた瞼をゆっくり開くと、虚ろ目で向かってくるロイを見つめて。
「ロイ!」
「分かってる!」
本人が構えたわけでもないのに、或いは意思に従ってかダークロイの剣は柄の先に黒い煙を引き連れながらロイに斬りかかった。当然、ロイは己の剣を振るって一度弾いたがまた、斬りかかる。仕方なく後方に跳んだところを軌道を変えて、ロイは剣を横に構えて防御。
……まるで、剛腕の男と押し合いをしているみたいに剣が重い。
どうやら特殊な剣に恵まれているらしい。人の血を吸うことで重量を増す、いわゆる呪われた剣ってやつか。
臆病な主の意思に従い、仇なす連中を守るため、傷付けないために働く。
「……っ」
過去の映像がちらつく。
「お前はそいつを頼む!」
何が、と聞くまでもなくダークピットが先制を仕掛けてきた。
「ヤなとこ似てて気に食わねえ! こいつは俺がぶっ倒す!」