偽りの天使
ぐらり、傾く。
「か」
柄の先で後頭部を打った後に背中から腹部にかけてのひと突き。
引き抜くと同時、舞い上がる鮮血。
ぁ、あ。
ボクが言わなかったから。
「……だから、言ったじゃないですか」
どさりとうつ伏せに倒れる本物を見下して偽物は剣を軽く振るう。
「痛いのは駄目なんだって」
――血が床に跳ねる。
「っ……」
ロイを置いて先には進めない。
でも、ああなんでこんなことになっちゃったんだろう。あの時、ボクが敵の存在を知らせていれば。ロイは何度も繰り返し危機を救ってくれたのにどうしてボクは、肝心な時に余計なことを思い出してばかりで。
「……どうしたんです?」
ゆっくりと。距離を詰めてくる。
「く、来るな……!」
合わせて後退を図るボクの頭の中には戦うという正しい対抗手段が靄に隠れて見えなくなっていた。その時は何故か逃げることばかり頭の中を巡っていて。
どうしても助かりたくて。
「……ト……後ろ……」
だからなのだろう。
背後から忍び寄る敵の存在に気付かないまま、鈍い音と共に暗闇を迎えた。
ボク、罰が当たっちゃったのかな。
……パルテナ様。