偽りの天使



何処か含みのあるロイの発言は過去に何かあったものだと悟らせ、また、ピットも暗黙の了解でそれ以上は問わなかった。廊下には変わらず靴音が響いている。

コツ、コツ。

こうも静かだと嫌になるな……何処かでループしてるんじゃないかと疑いたくなるような長い廊下が続く。

ひたすらに、ただひたすらに。これが本当に進んでいるのか、はたまた戻っているのかそれさえ分からない。まさか、靴音だけそれらしく響かせておいて足下の床がランニングマシーンみたいに先へ進ませまいと戻ってるんじゃないだろうな。

進展が無いのは頷けるが、だとしてテーマパークじゃないんだから。

「さっきのことなんだけど」


コツン。


「……?」
「言いかけてたやつ。邪魔されただろ」

ピットは視線をそろそろと後ろへ向けた。

「なんかタイミング逃してばっかで大事なとこ抜けてるし」

小さく目を開く。

「俺が本当に言いたかったのはさ」


赤の双眸が不気味に揺れて、笑みを浮かべる。


「ぁ」

剣を振り上げる。

言わなきゃ、倒しきれてなかったんだって。


早く知らせなきゃ。


――えっこの羽根飛べないのか?

天使なのに変だなお前。


「……どうし」

怪訝そうに投げかけられたその言葉は途中不自然に途切れた。
 
 
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