偽りの天使
はあっと息を吐き出す。
「……大丈夫かな」
――浮遊大陸、敵軍基地内部。
ロイとピットは微かに息を弾ませながらダークロイを見下ろした。
血みどろとまではいかないが奴は確かに胸部から血を流し倒れている。行動を共にしていたンガゴグも腕や足を切り落とされ達磨のような姿に、床に横たわったままぴくりとも動かずその気配すらない。
「敵の心配なんかすんなよ」
恐らくは戦闘の最中に切ってしまったのだろう、ロイは手の甲で口端に滲んだ血を拭うと剣を仕舞った。ピットもようやく構えを解いて。
「すぐに此処を離れるぞ」
敵に気付かれていることは確かで応援が駆けつける可能性のある其処に長居は無用であることは分かっていた。さっさと歩き出すロイに対し、ピットはほんの少しの視線を残しながらそれでも次第に彼らを視界から外して後を追いかける。
「……ロイは平気なの?」
「何がだ?」
コツコツと靴音が響いている。
「ボクはやっぱり、敵だと分かってても人の姿してるからさ」
少しの沈黙。
「……迷わないことにしてるんだ」
ロイは言った。
「じゃなきゃ本当に大切なものは守れないから」