偽りの天使
ばすっ、と虚空が見えない斬撃によって斜めに裂かれた。
内側から押し広げられ、青い空とは裏腹の紫色の空間がその奥から覗かせる。
「皆下がって」
事態に気付いたルーティが静かに告げた。
――奥の紫色の空間はぐるぐると不気味に渦を巻いている。そして。
不意に、その時は訪れた。
赤黒い波紋が三度に渡って正体不明な空間の裂け目を中心に広がったかと思うと、そこから一人の少年が現れたのだ。ふわりと参上して浮遊する、彼の背後で空間の裂け目がジッパーを締めるように閉ざされて。
ゆっくりと瞼を開く。その瞳は右が青と左が赤のオッドアイ。
「子供じゃねえか」
身構えていたネロは少しほっとひと息。
「敵にしちゃ拍子抜けだな」
ファルコは言うがその通りなのだ。紫がかかった跳ねっ気のある白髪に白磁の肌。幼げな風貌からあの少年が敵だとは到底思えない。
だがあの時の異様な気配だけは誰も忘れていなかった。
「気をつけて」
少年は何をするでもなく手を後ろに組んで此方を見つめている。
口元にはうっすらと笑み。それが次第に不気味さを物語って辺りを緊張させる。
……そして。