偽りの天使
本当に翼が無くて、飛びたいと願うだけなら他の誰とも変わらないさ。
でも、ボクには確かに翼がある。
「あたた……」
物心ついた時からずっと一緒にいるコイツは、多少は動かせど空を飛べない。
羽ばたかせることで滞空時間を伸ばし、人より高い場所へ向かうは容易いが飛んでいるというわけではない。滑空もできるが自慢にはならない。
“空が飛べない”。
天使のボクにとってはそれが痛手だった。
「悪りぃ、大丈夫か?」
剣を腰に据えた赤茶色の青年が駆け寄って膝を付く。
太陽の日差しに目を細め、腕を翳して呟いた。
「……ロイ」
差し出された手を握って上体を起こした。腰を強く打ったが、幸いにも草地。
体は丈夫な部類。数分も経てば気にならなくなる程度。
「お前どうやって登ったんだ?」
ロイは屋根を見上げた。これまでピットは屋敷の屋根の上に居たのである。
「このくらいの高さならどうってことないよ。ボクだって少しは飛べるからね」
「飛べるってか、空中ジャンプみたいなもんだろ。人より回数が多いだけで」
「うぐっ」
相変わらず痛い所を突くなあ。この人は。