偽りの天使
珍しいことに声をかけてきたのはマルスだった。
……マルスといえば、ロイとは幼馴染み兼主従の関係にあたる。口で説明するには難しいが切っても切れないような強い絆に結ばれていて、騙し騙された互いの嘘を乗り越えて現在のような分け隔てのない兄弟のような関係があるようだ。
「……、」
廊下を歩けど無言だった。
集合場所である中庭に向かうついででいい、とは言っていたけど。
「ピットは」
マルスは不意に足を止めた。
「彼のことが嫌いなのかい」
……それが誰のことを指しているのか、気付くのに時間はかからなかった。
「えっ?」
此方も振り返って足を止める。
……様々な思考が頭の中を巡った。相談されたのだろうか。無意識の内に声をかけられたところで聞こえないふりをしたり、或いは鉢合わせ自体避けようとしていたのかもしれない。何が自分をそうさせているのか、それはボクが。
彼のことを。
「この際だからはっきり言うよ」
マルスは言った。
「――君が嫌っているのは」
“空を飛べない”という君自身の真実だ。