偽りの天使
彼らは敵だ。不意を突こうと狙うのは当然。
けれど此方も全く警戒を張っていないというわけではない。僅かな気配でも察知すればこうして撃退に現れるのは当然……しかも見たところ彼の独断。単独で現れたのでは返り討ちにあうのがオチだというのにこれはどういうつもりなのか。
「……あんたたち人間は贅沢な悩みを持ってるねぇ」
かくんと首を傾けた。双眸の赤が妖艶に灯る。
「こんな宿命いらなかった。こんな能力いらなかった」
ユウは目を細める。
「いらないなら捨てればいいんじゃない。でも、誰もそれをしようとしない」
翼の羽ばたける音が妙に響いた。
「それならいっそのこと、もぎ取ってあげようと思ってねぇ」
――彼は、へらへらと笑いながら言ってのけたが容易い話ではない。彼のことだ、きっと杜撰な方法で奪い去ろうという魂胆だったのだろう。
ユウも内心ぞくっとしていた。無意識の内に、瞳を庇うように右手が伸びて。
「分からないかなぁ。俺のコレだって、本物じゃないんだよ……あんたらの偽物のダークリンクやダークミュウツーと同じ。真似て造られた複製なんだから」
言いながら。
ダークピットは自身の翼に触れると羽根を一枚、引き抜いた。
「……本物を欲するのは当然だよ。いらないのなら貰ってあげる。いらなかったと嘆いたそれを、欲した俺達なら愛しく狂おしく使いこなせる」
その羽根に口付けて。
「優柔不断なお馬鹿さんにはそれが分からないのさ。本物の偽物の気持ちが、ね」