偽りの天使



はっと顔を上げて振り返った。

……今。後ろから、声がしたような。

ピットの視線の先には窓があった。そこから決して視線を外さないままベッドから足を下ろして立ち上がり、そろそろと近付く。窓ガラスに手を付いて覗いたが誰もいるはずがなかった。ここは、二階。足場は無いしそれなりの高さがある。

紺碧の空に宝石のような星々が散りばめられた美しい夜。憂いを帯びた優しい光が仄かに温かい。満月を見つめていると、先程の荒んだ思考が申し訳なくなる。

パルテナ様にだけはばれていませんように!

「……はは」

もうとっくにばれてたりして。

ふと視線を感じた。窓ガラスに自分の姿が反射して映り込んでいる。相変わらず寝ても覚めても元気のある癖っ毛だなあ、なんて思いながら前髪の毛先を摘まむ。

……ん?

「――ッッ!?」

窓ガラスに映り込んでいた少年の口元が不意ににやりと吊り上がった。

思わず唇に触れると今度は、目が、笑って。え、

え、嘘だろ、なんで、

「……あ」


――みるみる内に翼は内側から黒く染め上がり、そして。

不自然に少年の首が傾き、……折れた。


「……ひひっ」
 
 
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