偽りの天使
ピットはわざとらしく唇を尖らせた後で失笑した。
「……帰ろっか!」
「おうっ!」
握った拳を軽くぶつけて交わす。
「誰が運ぶと思ってんだか」
「お世話になります」
「さて。いくら儲かるかな」
「げっ金取るのかよ」
「今ここで降ろしてもいいんだぞ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
物好きな人がいたんだ。
その人は、どんなに拒んでも、突き放しても……領域に踏み込んで、手を伸ばして捕まえて外の世界に引っ張り出した。
ボクの本音を引きずり出して向き合ってくれた。
……あんなに空が怖かったのに、今は。
「なに笑ってんだよ」
「ううん」
ピットは頬を朱色に染めてとびきりの笑顔で言った。
「なんでもないっ!」
end.
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