偽りの天使
「……ロイ?」
怪訝そうに呼びかける。返事がない、ただの屍――かと思えば次の瞬間には寝息が聞こえてきた。布団に入って僅か十数秒で夢の中って便利な体質だなあ。毎度このマイペースっぷりには感心するやら呆れるやら、後者八割であははと苦笑い。
同じ、明日への不安を感じていたならこうはならない。つまり、彼にとって空の上なんてのは特に気にする必要性が無いという、
……本当。なんでこんな、ボクばかりが悩んでいるんだろう。
そりゃそうだよね。ロイには元々飛べる術がないんだし、だから空が怖いとかいちいち理由を付けてられないんだ。強がりとはまた違う、彼らのような人間にとってそれが当たり前だからそんな恐怖の壁くらい乗り越えるのが普通で……ボクは。
ボクは、どうだろう。
この翼を使って、大空へ羽ばたけたなら。そんなくだらない悩みなんて脱ぎ捨てて壁なんかひとっ飛びで越えられるはずだったのに。
どうして、ボクは。ボクの翼は。
「昔から変わらない」
「……何も進歩していない」
他の天使たちに留まらず、空を飛べる全ての生き物が妬ましい。
翼が無ければ。天使じゃなければ。
ボクがこんなに苦しい思いをすることなかったのに――
「それならいっそのこと、捨てちゃいなよ」