偽りの天使
「なんで断らなかったのさ!」
――その日の夜。
「おぶっ」
ピットは枕をロイ目掛けて投げつけた。低反発。
「駄目じゃないです、って答えたのお前だろ」
顔面ヒットした枕を剥がしてロイはじっとりと睨みつける。鼻が赤い。
「大体それ、ぼーっとしてるお前も悪いんだからな!」
正論を言われてしまえば敵わない。ぐぬぬ、と上手い言葉も返せず撃沈。
「とにかく作戦の決行は明日! 分かったならもう寝ろ」
ロイは枕を投げ返し、さっと寝転んで布団を被った。枕を受け止めたピットはそれでもまだ暫く不貞腐れていたが諦めたのか溜め息を吐いて、
「……電気、消すから」
カーテンの隙間から射し込む月明かり。
ベッドに寝転んでみたが眠れない。明日のことが気がかりで仕方なかった。
「あのさ」
不意にピットは口を開いた。
「ロイは怖くないの?」
飛べないのは同じことだ。それでもこの翼自身はいわゆる希望でそういう意味では何度も助けられた。けれど彼らはどうだろう。万が一、落ちてしまったら。
そういうことは怖くないのだろうか。空が怖くないのだろうか。