霧雨の視界



不意にリオンが立ち止まった。

振り返ると、あちらも犬のような形をした大きな耳を頻りに動かし、それから振り向いて。ようやく必要な情報を拾ったらしい。

「……どうだった」

リオンは辺りに目を走らせて。

「あの路地裏らしいな」

敵もまた在り来たりな場所を選ぶじゃないか。人目に付かないのは救いだ。

「……行くぞ」

ユウは先を歩きだす。

「ところで、これで何もなかったら私はどうなるんだ?」
「電柱に縛り上げてやる」
「服も脱がせて公開羞恥でお願いします」
「そのまま警察と戯れていろ」


人混みを外れて路地裏に入ると、この天気とだけあって暗かった。

物音。まさか大袈裟に構えたりなどはしなかったが、物陰からにゃあと鳴いて猫が飛び出していくのを見て内心ほっとした――のも束の間。

駆ける猫の足下から黒い何かが口を開くように伸びて捕まえ、猫をすっぽりと包み込みつつ高く持ち上げた。まん丸とした形をとったそれは次の瞬間、ぐぐっと収縮すると外に少量の血を撒き散らして。

ほんの一瞬の出来事だった。

「ッ、」


――視界の暗転。赤が点滅する。


「下がれ!」

すぐに現実に戻ってきた。ユウはすかさず叫んで、後方に飛び退く。
 
 
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