霧雨の視界
……次の瞬間には自分は彼の腕の中にいて、後頭部に回された右手が優しく撫でるのを感じていた。温かくて、苦しくて。
「っ……ごめん」
「謝らなくていい」
「ごめん」
「責めるな」
虚勢という名の壁が崩れていく。
「そうやって庇って、貴様に何がッ」
「分かるさ。貴殿はもう十分に傷付いた」
誤魔化せない。
「……泣かないでくれ」
こいつの優しさが嫌いだった。
甘えたくない、頼りたくないと虚勢を張る自分にはただ、ただ、敵で。
怖かった。
彼の優しさに触れている内に、少しずつ蝕んで。
違えることのない未来の果てに殺してしまうかもしれない。
そう、思い込んでいたから。
「馬鹿だな、ユウは」
リオンは小さく笑った。
「いくら嘘をついたって私には分かるよ」
ゆっくりと肩を押して解放し、
「誰かが気付かなくても、私はそうじゃない」
親指で伝う雫を掬い、優しく笑いかける。
「突き放されてもどうせ気付いて、何度だってこうして抱き締めるよ」