霧雨の視界
夢を見ていたらしい。
そう錯覚したのは意識を失っている間、“無”の暗闇に放られているでもなく温かな何かを体全体に感じ取っていたからだった。
黒より、白。そう、まるで光に包まれているような。
……それこそ夢を見過ぎた話だろうな。
行き着く先は天国か、地獄か。多くは望まないさ。前者にしろ後者にしろ、良くも悪くも居場所というものがある。扱いはどうであれそれだけでいい。
誰と関わる必要性が無ければそれで。
そう思って瞼を開くと、真っ白な世界が視界に飛び込んできた。
やれやれ。天国を引き当てるとは余程、
「っ、……く、ぅ……」
すぐ傍で咽び泣く声が聞こえて現実に引き戻される。
単なる錯覚だったようだ。ここは天国じゃない。
「……、」
真っ白な天井。自分は病院の一室のベッドで眠っていたようだった。
ぼんやりとしていた視界は次第にはっきりと。それでも、長く天井を見据えた後に今度は窓へ。外の世界では、まだ、或いはまたしとしとと雨が大地を濡らして。
「……、」
点滴が視界に映り込む。
チューブを辿っていくと先程から肩を跳ねる、青年の頭が見えた。
安心しているのか呆れているのか、ともかく自分はぼんやりと口を開いたのだ。
「……泣くな」