霧雨の視界
泥に埋れた体を、起こしたのは奴だった。
そうはいっても和解の末などといった感動的なものではなく、それはそれは目を疑うような扱いっぷりで。足で踏んで仰向けに転がし、それから胸ぐらを掴んでぐぐぐ、と持ち上げていく。体力の差は一目瞭然。勝てるはずはないと当然分かってはいたのだが。
「……ぁ」
声は洩れるがはっきりと発言できない。
目の前のそいつは変わらぬ無表情で波導を纏った拳を片方に構えている。
――こいつは死ぬ。
それはきっと変わらない未来。
私がそこに加わろうとそうでなかろうと、決して違えるはずもない。
「……、」
走馬灯といったか。
物心ついたその時から今に至るまでの記憶がカラカラと、長いフィルムとなって脳裏を駆けていく。案外すぐに途切れてしまったのは、それほど長い生を受けていなかったことを表しているのだろう。思えば短く在り来たりで、
……駄目だな。諦める癖がすっかり身に染み付いてしまっている。
また繰り返すんだな。
やっぱり駄目だったじゃないか。
最悪の未来を予知しておきながら変えられないそれは、よくテレビなんかで話題になる占い師なんかとよく似ている。人殺しよりはよっぽどマシだろうが。
握られた拳が引いていく。ユウはそれをぼうっと見つめた。