霧雨の視界
皮肉なものだな。
私には現在(いま)が、奴には未来が。その為にもがき、足掻き、戦い……
それは決して交えるはずもなく、遠ざかっていく。
この私が主人でありながら飼い犬である奴を追いかけるだと?
――ふざけるな。連れ戻してやる!
「リオン!」
じり、と踏み堪えながら。
「私の声を聞け!」
降り頻る雨の中を叫ぶ。
「未来を見張るだけでは何も変わらない!」
――爆発。
エネルギーが膨張しすぎたのだろう。多少の無理は承知の上だったがこうなる前にどうにかなればとは内心密やかに思っていた。
「ッ、か」
吹き飛ばされた体が地面を跳ねながら転がってようやく、止まる。
黒煙が立ちはだかる。双方同じ状況に見えてユウは絶対的不利な立場にあった。奴には、リオンには見えている。“だけ”が、視界に映り込んでいることを。
……来たか!
黒煙を破って飛び出す。地面を蹴り、低く跳んで踵落とし。
体を捻り地面を転がって躱す。泥が服に付着して重みを感じるが、実際はそこまで大袈裟なものでもないはず。その程度、些細なものが気になるのは疲労と、余裕を見れないせいだろう。ふらりと立ち上がり、よろめいて、
「――ッッ」
距離を詰められた。回し蹴りが頭の側面に直撃、薙ぎ倒される。