霧雨の視界
どういうことだ。
「っ、」
奴の標的は私ただ一人であることは確実だ。だが目的は分からない。
思い出せ。奴の能力は、他人の心の内を見透かす読心力。自身は何も感じないまま一体何処を見ているというのか。
お前は視えすぎる。
幼い頃、叔父に言われたことがある。
思い出して間もなく弾けた。今の中にあるずっと先、凝視するがあまり生じた混乱が感情を停止し、制御を失った体は己を壊しながら暴走を止められず。
現在(いま)じゃない未来に囚われている――!?
そうか。だから、奴の視界には最初から“何も映っていない”。
人の心の内というものは正しい現在しか映さない。だが私が見通した未来は嘘偽りのない本物だ。そして、奴がひたすらに凝視するのは未来。
未来を映さない人の心の内には靄がかかり、見えなければ声も聞こえない。
私は? 通して未来が見えるのならそれはただただ最悪の結末。
逆らおうとしているに過ぎない。
自分を殺そうとしている未来を壊そうとしている。ただそれだけの為に――
見えないものが触れるのが不安なら、見えるものは恐怖ということか。
成る程、私は単純に敵視されていたわけだ。は、随分と嫌われたじゃないか。
「……バカ犬が」