霧雨の視界
空気の流れが。
「ちょっと、ユウ?」
変化を。
「見殺しにしてやるとでも?」
彼の意図は早々に掴めた。
「そんなこと」
……が。
「無茶に決まって――」
「あれは私のパートナーだ」
一度、廊下に連なる窓へと目を向けて。ユウは立ち上がる。
「分かってんのかよ」
イーシスはぽつりと口を開いた。
「死ぬかもしれねえんだぞ」
しかし、もう既に歩きだしていたユウは足を止めない。
「自分も!」
ほんの少し焦りを含ませ語気を強めた忠告に、リビングを出る一歩手前のところでようやく立ち止まり、ユウは沈黙する。
「どうしようと私の勝手だろう」
――その決意は。覚悟は揺らがなかった。
「かっこいいじゃない。再婚しちゃおうかしら」
「おいやめろ無理すんな」
立ち去った後で、ラフィーユはぽうっと頬を染め両手で包み込む。
それは無論、わざとなのだろうが。イーシスの実の母親に向けたとは思えない鋭いツッコミに場の空気は和んだかと思いきや、刹那、屋敷を揺るがし響き渡る大きな衝撃音にリムは反射的に立ち上がって。
「……始まったわね」
ラフィーユは先程とは打って変わったトーンで静かに呟く。
「私たちも行きましょうか」