霧雨の視界
「っ、」
……間一髪。
青い波導を纏った左足による回し蹴りを仰け反るような姿勢で躱して。続けて空振りした左足で踏み込み、低く跳んだかと思うと繰り出されたのは右足による踵落としだった。これはまずいと踏んで、ユウは咄嗟に後方へ大きく飛び退く。
「ユウ!」
凄まじい音と共に砂煙が舞い上がる。
ただのそれなら受けきれるが、波導を纏っていたのでは訳が違う。まともに喰らえば骨折なんて可愛いものでは済まされないだろう。ある種、良くて粉砕だ。
「くっ」
足の裏を擦りながら退けている最中、リオンは砂煙の中から飛び出した。
敵意剥き出しだ。あっという間に距離を詰めて左手の拳が青い波導を纏いながら握られた。思わず小さく声を洩らし、両足をバネに更に後方へ飛び退く。
拳は虚しく空を切る。だが、いずれもリオンは無言のまま無感情の瞳にただ一人だけ――かつて執着したその一人を映してもう一度、踏み出す。
「ピチカ!」
ようやく立ち上がれたディディーが駆け寄り、退避しようとその手を掴んだ。
「早く」
「っ、でも」
彼女の言いたいことは痛いほどに分かる。何故、パートナー同士である彼らが戦わなければならないのか。リオンに、何があったのか。
「……本当」
声。ピチカとディディーは振り返った。
「手間ばかりかけさせやがって」