霧雨の視界
「い、っ……」
小さな呻き声を拾ってユウは振り向く。玄関である扉のすぐ横、壁に凭れるようにして座り込んでいたのはトゥーンだったのだ。頬と肩には微かな切り傷。
「どうした。何があった」
だがそれほど深いものでもない。ユウは急いで駆け寄ると、傍らに跪いて。
「っ……あいつ……」
微かに震えながらトゥーンは指をさす。
「リオン、が……」
ああ、やっぱり。
それを聞いた自分は思っていた以上に冷静だった。いや、或いは自分が気付かないまま動揺していたのかもしれない。それだけに次の被害が出るまで動けなくて。
「ぐあっ!」
その声に今度こそ振り返ると、ちょうどディディーが地面を数メートル程度派手に転がっていくところだった。視線を戻すとそこにあの男の姿を見つけて。
「ぁ……」
次に目を付けられたのはピチカだった。
「い、嫌……来ないで……」
これまでの二人は、彼女を傷付けられない為に庇い、戦っていたのだろう。
信じられないといった様子で両手を覆い隠すようにして口元に添え、恐怖に濡れた瞳を揺らしながらゆっくりと後退していく。その最中で、彼は――リオンは右腕に青く燃ゆる波導を宿らせるのだ。ふらりふらりと徒に距離を縮めていく。
彼女の恐怖は間もなく頂点に達する。そうして叫ぶより先にユウは駆け出した。
「いやぁあああっ!」